山の宿泊施設は薄い板で昭和のはじめあたりに建てられたらしいさびれぐあい
アルミサッシに手をつき外を見て興奮ぎみに指さされた景色には
渓流がひとすじ走っている
秋とともに金色に深まった蔦と橅の下に
透きとおった鉱物の輝きを面に敷く
その山の脈へと
より近くへと
木々をふもうとした足から
うすいガラスが張られた窓辺が離れると
金の葉と水と木造の宿から岸の土
爪先とひたいがもろともにざくりとまざりあう
目のとどいたところでは
渓流はほそく金の葉陰から瀬を速め
ぬるりと四肢を急がせた黒い山椒魚が水底を目指す
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