みなさん、尸魂界もそろそろ春めいてまいりました。
私は四番隊三席という役目がら、気候が良くなったからと言って遊び歩くわけには行きませんが、自然に心が和む気がいたします。
そんなことを考えながら綜合救護所の窓から青空を見上げたところで、ふと、視界の端を見慣れた死覇装が一生懸命こちらへ走ってくるのに気がつきました。
ええ、そうです。たとえ他に同じ装束の死神が千いても、私があなたを見誤ることは無いでしょう。
可愛いさん。ああ、そんなに急いで私に会いに来てくれるなんて。活き活きしたあなたに私の目は釘付けです。
「伊江村三席殿ー!」
「さん。お帰りなさい。もしや怪我でも?」
「いいえ、無傷です。」
現世での任務を終えて、無事に帰ってきて本当によかった。どこかに怪我でもしていた日には、それこそ、
「伊江村さんに、見せてあげたくて…」
と言いながら、さんはなにやら薄いものを袂から取り出します。
「今、現世で電車に乗ろうと思ったらこのカードがいるんですよ?」
新しいものを見つけると、まっさきに私に「お土産です!」と持ってきてくれるなんて、細やかな心配りに愛があふれていますね。
「名前が可愛いんです。」
いえいえ、朝露のように瞳をきらめかせているあなたのほうがずっと可愛いに決まっています。
あなたの温もりが微かに移ったカードには「スイカ」と書かれていました。
なるほど。駅の出入りに必要な札にふさわしい名前ですね。「誰何[すいか]」と名を問いただす時の言葉が使われているとは。でもさんは純粋ですから、きっと果物の名前と思って親しみを覚えたのでしょう。ここは正しい知識を教えてあげなくては。
「さん、スイカというのは」
「スイスイ行けるカードって語呂合わせなんです。おもしろいですよね。」
え。
”誰何”の「すいか」じゃないんですか?
スイスイ…行ける…カード?
「それは…おもしろい。」
「でしょう〜。」
私の眼鏡の奥に押しとどめられた動揺をよそに、さんは楽しそうに微笑みます。
私は強く心に誓わずにはいられませんでした。
こんなことぐらいで、くじけません。くじけませんよ?
愛するさんの笑顔を守るため、今回の勝負「一引き分け」ということにしてさしあげましょう!
次は私が勝たせていただきます。
覚えていなさい、スイカ!!
◇06.03.23◇
お笑い路線だけれど、純愛(というか溺愛)です。