選んでみせろ!


「剣八さん、究極の選択です。
 ここにあるポン・デ・リングとフレンチクルーラー
 2度と発売されなかったら悲しいのはどっち?」

「死ね」

「ええ〜?」

 間髪入れずに却下され、が不満そのものの声をあげた。
 わずらわしい、面倒くさい、うっとうしい。
 どちらも剣八の知らぬ食べ物なのだから、どうでもいい。

「じゃ、食べてから!」

 柚布はめげることなく笑顔で萱草色の箱をかかげる。
 現世の実地探査任務の時間に買ったとのことである。
 ”死神にとって現世の実情を知ることが肝要”という見地から導入された「実地探査」。
 剣八の目には至極無駄な「任務」だが、喜んでいる死神は多い。
 近頃「土産」と称する酒やらツマミのたぐいが増えた。

「やちると食ってろ」

 言うが早いか立ち上がって障子を開けると、声を張った。

「やちる!」

「隊長ッあぶな」

 悲鳴のような声が終わる前に剣八は、飛んできた異物を避けていた。
 パカンッと小気味良い音のしたほうを見ればベッタリと赤い塗料がついている。

「剣ちゃん、おしかったねっ」

「バカ野郎。簡単に当たるか」

「剣ちゃんも、まざってまざって!」

「私のほうが先に遊んでもらうんですよ」

「えー」

 顔を出したに、やちるは嬉しそうに赤、黄、蛍光色の桃色と、とりどりのボールを見せる。

「十二番隊でもらったボールなの。いろんな色がつくんだよ」

 それは物騒だ。色がつくだけなのかどうかも怪しい。
 剣八とは二人そろって黙りこんだ。

 まぶしいほどの発光塗料が塗られた一個を持ったやちるが勢い良く言う。

「これねっ、あたると光るの!」

 目をきらきらさせた少女は追いかけっこをやる気満々だ。
 ふと気がつけば視界の隅に、じりじりと間合いをはかる斑目一角。
 その頭はすでにボールの犠牲になっている。

「前衛芸術……みたいですよ」

「ハンパに慰めんじゃねーよ!」

 のフォローが聞こえたのか、一角の後ろでは弓親が「何色でも、一角は一角だと思ってるからさっ…ぶ、ぶははははは!!」と遠慮なく笑い転げている。

「で、どうします?」

 剣八が横を向くと、ドーナツの箱を胸の前に持ち上げているが居る。
 前にはカラーボールを山と持っている草鹿やちる。

 剣八は眉間に深い皺を刻んだ。
 癪にさわるが、仕方がない。
 ガバッと猫の子を掴むようにの襟を掴み上げると、やちるの前に突き出す。

「オレは、これからこいつと”遊ぶ”。邪魔すんじゃねえ。」

「そっかー……じゃ、つるりんをキラリンにするねっ!」

「おう」

 袂から取りだされた金色の一個は、彼女のとっておきのお楽しみに違いない。
 室内でいそいそと開けられる箱から漂う油と砂糖の匂いを嗅ぎながら、たぶん、この選択は間違っていないと思う剣八だった。



















◇2016.8.5◇
 ひさしぶりの今回は軽いノリの剣八夢でした。






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