犬か猫
「むう…」
唸ったきり、悩みはじめた相手は巨岩の如く静まってしまった。
「一生、どちらかしか飼えないとしたら、
犬と猫、どちらを選ばれますか。」
軽い気持ちで聞いたのだ。
そんな真剣に一生の大事とまで悩ませるとは思わなかった。
「返答に三日の猶予をもらえぬだろうか」
「いえ、その……」
いまさら「ほんの戯れ」だの「気楽に」という言葉をかける隙は見当たらない。
固い人だ、とは知っていたけれど、どうにも申し訳ない。
ほんの他愛ない質問で、狛村を向こう三日も悩ませるなど。
「あの、犬か猫は、わたしなら左陣さまが選ばれなかった方を選びます」
「何ゆえ」
「もし左陣さまが犬を選ばれたら、わたしは猫と居ますので、お側で可愛がってくださいませ」
「ほう……」
何か言おうとして続かない狛村と、しばし顔を見合わせる。
それから、ようやく「猫ですよ! 猫を、ですよ!」と慌てて取り繕った。
「いや」
狛村が決まり悪げな面をそれとなくそらし、一言ずつを噛みしめるように呟いた。
「殿の案は、なかなかに贅沢」
◇2016.06.07◇
しっとり狛村さんとお話したいドリームです。