ひとつの朝


 「常在戦場」とは、よく言ったものだ。

 朝、いつも通り一足早く目覚め、密やかに夜具から抜け出そうとした矢先、しっかり腕を掴まれた。
 しっかり、と言っても起き抜けのせいで握力が弱い。

 無言で振り払い、手早く単に袖を通す。
 こうなると、さっさと身支度を終えねば面倒なことになる。

てっめぇ…」

 私の後ろで城主が唸る。
 さすがに、これを無視することはできず、座り直して挨拶を返した。

「おはようございます。政宗様。」

「あのなぁ、せわしねえ真似すんじゃねぇっつったろ。」

「起床の刻限までは間がございますゆえ、殿はいま暫くゆるりとなさいませ。」

「Shut up!」

 がばりと起き直った相手に怒鳴りつけられた。

 一応、この件については説明済みだ。

 戦忍の習い性で、私は誰と夜を共にしようが、つい相手より早く目が覚める。
 どんなに疲れていようとも、だ。

 それが毎度毎度政宗様の気に食わないらしい。

「いくら忍だろうが、張らなくていいとこで妙な意地張るんじゃねえ。」

「……意地ではなく、癖みたいなもんです。」

「大体、そんなんで、ちゃんと休めてんのかよ。」

 低められた声が、あまりに耳に心地よかったもので、返事に困る。
 そんな言葉をただの忍にかけるものではない、と、たしなめようかとも思う。
 いつも、私を見据える淡い色の隻眼は真っ直で、ともすると、とんでもない高望みに溺れそうになるから。

 それで私は微笑み浮かべ、胸中の揺らぎをごまかしながら冗談めかして本音を告げる。

「もったいなくも、お優しいこと。
 あなた様になら寝首を掻かれても、本望ですよ。」

 お前は物騒なことを言いやがる、なんてボヤきまで大切に胸の奥へと仕舞いこみ、私は愛しい人の寝所を後にした。

















◇2011.04.23◇
 拍手お礼文をHPへ移動して、名前変換を入れました。
 






夢小説 | リンク |  雑記 | 案内