仰向けのままで
ふたりして天井をながめている。
障子を隔てたあちらがわから座敷に切りこんでいる光は天気の良さを声高くうたっている。
この刻限に衾に沈み、ぬくもりをわかつ贅沢に侵されてしまってはどうなることか。
隣に目をあいている男にはかぎりなく縁のない心配を抱く。
この甲斐武田屋敷での静養を一刻も早く切り上げたがっている男に。
「まだ、ご不興でいらっしゃる」
「いつまで寝かしときゃ気がすむんだ。見張りまでつけやがって」
その誤解を解くほど忠義者ではない。
ここに静養の邪魔者がいるなどと言ったところで一笑に付されるのは目に見えている。
戦場に心を馳せ意気込んで逸るばかりの視界には、はたしてこの姿は残るのだろうか。
絹の衾から腕を抜き、あきるほどふれていた首に手をかける。
「お気に、召しませなんだか? 政宗さま」
「……そりゃ、こっちのセリフだぜ。」
とんだ暴れ馬だった。
あれだけ人を乗せて駆け通しておきながら、まだ気を抜けば半身を起こし独り駆け去ってゆきかねない。
「幾度も、お怪我を失念いたしました」
そっと囁く、なだめるための手の上下を掴み上げ、退屈しのぎの舌先がひじ裏を這う。
ぞっと背を走る快楽の名残は押さえて置くべきだとは知っている。
「見おろされてばかりってのはcoolじゃねえな」
もてあます滾る熱が行き場を探してのたうっている。
刀を持てれば満足のゆくまで相手をしてやりたい奴もいる。
「今は、自重なさいませ」
やわらかな肌に鎖された身が使い切れぬ熱量を解き放てと叫び立てるのだ。
たゆまず鍛え、戦に向かわせるべき力を落とさぬように、それだけが鎖が疎ましい理由。
常ならぬ光の中で燃える肌を見ることすらままならないとなっては、まるで子供じみた意固地な口もきこうというもの。
「私が、叱られます」
眉をひそめるながら濡れた瞳をしばたたかせる。
そんな顔は戦場にあっては命取りだ。忍であれば、よくわかっているだろうに。
「Don't Worry! 俺が先に殺してやる」
強く腕を引けば釣り上げられる魚のように柔らかな身が乗り上げる。
「ああ、もう」
自らの右目は隻眼と向かいあい二人して仰向けでいる。
視界に捉えたものを逃す政宗でないことはがもっともよく知っていた。
◇2015.03.13
片倉小十郎が知らないひとときのお話です。
幸村登場でお笑い展開になるのを我慢して書きました。