〜慶次VS幸村〜
「おぉーい!」
「あーっ!」
何日ぶりに会えたのか、急に分からないぐらい学校に来ていない幼なじみが手を振っている。
慶次くんが帰ってくるなんて、と、とりあえずはそっちの方が気になった。
「元気だった? 明日はちゃんと学校来る?」
「んー、たぶん。も元気そうでなによりだ」
「たぶんとは何事か! たぶんとはぁっ!」
「真田君、お父さんみたい」
「だよなあ」
あはは、と人懐っこい笑顔の幼なじみは結構な名物男だけど、一緒にいる真田君も超がつく有名人。
二人が一緒にいるなんて明日は雪が降るかもしれない。
といっても、しょっちゅう学校を休むのは慶次の方で、マジメな真田君は無遅刻無欠席。和菓子屋さんの跡継ぎを目指してなかったら運動部で大活躍してそうな「熱い人」だ。
「学業をおろそかにするなど学生にあるまじき振る舞い! 神崎殿からも叱責の一言あってしかるべきでござろうっ!!」
「えー、でもそれ昔からだから。慶次の放浪好きも、寄り道好きも」
「なんと! 昔から!?」
目を見開いた真田君は、何をする時もアクションと声が大きい。
どうしても、そろそろ人目が気になり始めてきた。
いつでも熱く突き進む感じの真田君と、誰にでも人当たりが良い慶次。
そんな二人には男女問わず、たくさんのファンがいる。
だから、こんな道の半分を占領しての立ち話なんてしてたら、突き刺すみたいな視線を集めてしまうのも無理はない。
「あの、さ、お茶飲みながらお話しよう?」
二人の目が、なぜかパッと輝いた。
「よしきた! は、まつ姉ちゃんの豆乳ドーナツが好きだよな!」
「殿には油物より、あっさりとした団子や季節の生菓子抹茶付きがふさわしかろう!」
わぁ。地雷踏んじゃった。
二人共、自分の店が一番の人なんだっけ。
どうしよう。手近のスタバじゃだめ……かなあ。
そーっとまわりを見ていたら急に慶次の気分が変わった。
「そっか。和菓子屋行ったら、あんたは修行だよなあ」
慶次は晴れやかな顔で真田君を見ている。
真田君も爽やかな笑顔で慶次を見る。
「それがしも得心いたした。前田殿の店へ行けば、まつ殿の手も助かろう」
「私は、そこのスタ」
「殿ッ! 前田豆腐店へ参ろう!」
「おっと、女の子の美容のためだ。武田屋に行こう!」
二人とも、どうして気が変わっちゃったんだろう?
ううん。あきらめないで、行きたいお店を言ってみよう。
「私はスタバが良いな。言えば豆乳にしてもらえるからヘルシーだよ」
二人の希望の、あいだを取ったつもりだった。
お菓子があって、三人でお話できて健康にも良い!
なのに、不思議に二人は息ピッタリで却下した。
「だめだ」
「論外でござる!」
「どうして!?」
左から慶次が力説する。
「あんな全国どこ行っても同じ味の店、楽しくねえよ!」
右から真田君が身を乗り出して拳を固める。
「それがしも同感でござる。一歩足を踏み入れれば生くりーむだの、ふらぺちーのだのに目移りするは必至!
しかもコーヒー豆農家に負担を強いておる非道な経営姿勢がッ納得いかあぁあああぬ!!」
うん。後半はあれだけど、前半は反論できない。
ほんとに二人とも、何でこんな時だけ気が合うんだろう?
このままじゃ、どこのお店に行こうって言っても1対2で負けちゃう。
パニック寸前の私に、どこからともなく静かな声が助け舟を出してくれた。
「その通りですね」
「だろ? やっぱ店は人情あふれるとこに限るよなあ」
「それがしの継ぐ店こそ日本一の人情あふれ味良き店でござる!」
「ならば店の発展に尽力するのが道理かと」
がし、と肩をつかまれるまで気がつかなかったらしい。
「そうでしょう? 慶次」
「……まつ姉ちゃん」
「ちゃん、真田殿、あいにく慶次は用がございますゆえ、茶話会には後日誘ってやってくださいませ」
「しょ、承知いたした」
慶次を黙らせ、引きずって帰れる人。
まつさんが穏やかな笑顔に、とんでもない迫力をまとって来たおかげで
引きつった顔で慶次が帰ったあと、真田君は武田屋さんの良い所を顔を真っ赤にして宣伝して、あっという間に走って修行に行ったので、同級生三人のお茶会は平和に流れてしまった。
◇2015.2.25
途中までは良い勝負だった、はず。
まつさんの登場で持ち越しです。