「こんにちは」

「よう、Welcome! 

 商店街のはずれ。北の端にあるのに、テラス席はいつも満席。
 喫茶「弦月」の店長、伊達政宗さんは季節に関係なく外での接客に忙しい。
 一緒に写真を撮ろうとスマホ片手に待ち構えてるお客さん達の殺気は、政宗さんが振り向くとおさまった。


   〜小十郎VS半兵衛〜


 店内に入って、ほっと息をつく。
 いつもテキパキ働いてる片倉さんが穏やかに出迎えてくれる。
 お客さんが少ない、というより私以外にはカウンターに座っているスーツ姿の男の人だけだ。

「いらっしゃいませ」

「Aランチ1つ」

「食後のお飲み物は?」

「アイスティーでお願いします」

「かしこまりました」

 今日は寒い季節もそろそろ終わりそうな小春日和で、もっとお客さんがいるかと思ってた。
 ……片倉さんの顔が怖いからかな?
 本当は丁寧で細やかなサービス通り、優しい人なのに。

「やっぱり、この店は君の力で成り立っているようだね」

 そう! 常連さんじゃないのに鋭い人!
 店長さんも働いてるけど、料理接客掃除はもちろん、お店のHPとかツイッターまで更新してるのは片倉さん。
 料理は仕込みだけじゃなく、食材の仕入れにもこだわってて朝早くから夜遅くまで働いてるって噂も聞いたことがある。

「政宗君はファンの応対ばかり、バイトも入れずに回っているのは誇っていいことだ」

「口に、気をつけろよ竹中半兵衛」

「気をつけているとも。君こそ僕の店に来るべきなんだ。
 こんな場末じゃなく世界に手の届く所にね!」

「俺は今生、政宗様以外に仕える気はねえ」

 え。
 これ、生のヘッドハンティング!?
 しかも片倉さんって、あんな怖い声も出す人だったんだ。知らなかった。

「脇が甘いね片倉君。常連さんが減ったらどうするのかな」

「てッめえ」

 ダメですよ片倉さんっ、声落としても聞こえちゃってます。
 しかも、さっきより……こわい。
 取り込み中なら帰ったほうが、って、あー、そしたらタケナカさんて人とケンカになって外の常連さんも帰っちゃいそう。
 そこに政宗さんが加わるなんて事は絶対避けなくちゃ。
 大丈夫。片倉さんはいつも親切だし、店長をすっごく尊敬してるから腹が立つんだよね?
 それに、今からランチを断りたくない。
 どのランチにもついてくる野菜の煮つけは美味しいんだから!

「お待たせいたしました」

 片倉さん、すごい切り替え早いです。
 さっきの声の人と同じとは思えない爽やかさで、ワンプレートが目の前に置かれた。
 もう帰れない。
 あっそうだ!

「あのっ! 追加でデザートください」

 今月苦しいけど、売上アップに貢献できるのはこれしかない。

「そういうもんは、笑顔で頼みな」

 メニューの代わりに貰ったのは優しい笑み。
 どうしてバレたんだろう? 頬が熱くなる。
 片倉さんはアイスティーのグラスをそっと机に置いて、カウンターへ戻って行った。

「可愛いお嬢さん。デザートなら、僕の店でどうぞ」

 入れ替わりにカウンターを立って来た人が名刺をくれた。

「スタバの、店長さん!?」

 声に似合う涼やかな笑顔。すらりと背が高くてモデルさんみたい。
 ただ歩いてるだけなのに優雅な雰囲気。
 ”スタバの店長さんって超美形なんだ〜”って噂、本当だったんだ。

「僕はあきらめないよ、片倉君」

 にっこりと、私にも、苦虫を噛みつぶしたような顔の片倉さんにも平等に微笑み、
 竹中さんは店を出て行った。
 後に、なんとも言えない沈黙が残る。

「片倉さんっ! いつも煮つけが美味しいです」

 それだけじゃないけど、これ以上は、まだ、言えない。

「客に店の心配させるなんざ、店長に向ける顔がねえな」

「そんなことないです」

 片倉さんは、客に励まされちまった、とか言って笑ってから
 冷めるぞ、と付け加えてカウンターを片付けはじめた。
 大人……だな。
 そう思って食べたランチは、やっぱり、いつも通りおいしかった。












◇2015.03.01
 片倉小十郎は何をさせてもソツなくこなす人だと思います。
 そして、こんな場面にもハマってしまう竹中半兵衛の軍師引き抜きエピソードに感謝です。






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