7.聖川真斗の苦悩


 信じられない光景を目にした。
 それは昼食を終えて神宮寺とドラマの練習のため、練習場所を探していた時だった。

 寮の中庭にと四ノ宮が敷物を敷き、和気あいあいと食事をしていたのだ。
 まるで、恋人同士のように楽しげに。
 神宮寺も同じものを見て足を止めた。

「シノミーも、やるねぇ」

「待て、神宮寺! どこへ行く?」

「いいじゃないか、ちょっとジャマしてやろう」

 別に、神宮寺に乗せられたわけではない、と思う。
 事情が知りたかったので、俺も神宮寺の後を追って中庭へ出た。

「お日さまの下で食べると、いつもより美味しいですね〜」

「四ノ宮さん、サケおにぎり食べちゃってもいいですか?」

「はい、いいですよ〜。僕は何にしようかな」

 ただ単に二人で昼食をとっているだけだ、と自分に言い聞かせる。
 そうでもしなければ、いたたまれない。

「レディ、今日はシノミーとお昼かい?」

「神宮寺さん、それに聖川さんも」

 聞くと、は四ノ宮の料理が不器用で心配なので、共に料理を作り、
 その礼に出来上がったものを共に食べているとのことだった。
 そんな礼がまかり通っていいのか!?
 明らかに四ノ宮が苦手を逆手にとって、の笑顔を独り占めしているではないか!
 俺も心配されるほど料理が不得手だったら良かったと、一瞬真剣に望んでしまった。

 聞けなかったが、料理の手伝いは一体いつまで続けるのだろう。
 心根の美しいは誰にでも優しく面倒見が良いからな。
 うっかり四ノ宮の面倒を見ているうちに仲が深まってしまったりしないだろうか?

「イッチーはレディと読書会してるし、セッシーは合奏。
 こりゃぁいつまでもノンキにしてられないね」

 思わず「そうだな」と同感して神宮寺に驚かれ、笑われる始末だった。

 それにしても、なんとも歯がゆい。
 俺はと合奏しやすい楽器が得意というわけではない。
 不得手な家事も特に無い。

 今まで俺は誠実に、真心をこめてに接してきた。
 の夢と共に歩むことが、二人の絆を大切にする事だと信じてきた。
 だが、どうにもこれまでの接し方では足りないようだ。
 もしの暖かな笑みが俺にだけ向けられたら、どんなに満ち足りた気分になるだろう。
 まだ勝負は決したわけではない。俺は、必ずやお前を振り向かせてみせよう。












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◇2017.3.1








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