A Shout


 珍しく夜にふらりと来た蘭丸は口数が少ない。
 ソファの背に頭をあずけてもたれかかり、ぼんやり天井を眺めている。

「お風呂入れるよ」

 11時半をまわっていても、それだけは準備して待っていた。

「悪ぃ、。寮に戻らなきゃなんねーからいい」

「お疲れさま」

「プロだからな。仕事はキッチリやる。
 後輩追い込んで成長させろっつわれたら、
 悪役だろーが恨みがましいヤツだろーが演じ切ってやるよ」

 メールの着信音がたて続けに鳴った。
 蘭丸の隣に腰かけると、蘭丸が画面を見てためいきをついた。
 無言で端末が差し出された。

「見ていいの?」

 うなずいた相手から受け取った画面を読む。

 ”差出人:聖川真人
  件 名:お疲れ様です

  黒崎さん、遅くまでお仕事お疲れ様です。
  夕食はどうされますか。
  本日の主菜は鰆の西京漬けです。
  冷蔵庫に入れておきますので電子レンジで30秒ほどあたため
  お召し上がりください。”

 ”差出人:神宮寺レン
  件 名:場所は?

  ランちゃん今どこなんだい?
  タクシーが拾えないんなら迎えにいくよ。
  オレは夜のドライブにも慣れてるからね。
  いつでも呼び出して。”

 読んでいて、思わず頬がゆるんだ。

「良いじゃない。なんかもう主婦と恋人みたいな後輩くんじゃない?」

「ぜんっぜん良くねえッ!」

 勢い良く蘭丸が振り向いて反論した。

「あいつらとっとと寝りゃいいのに、いつまでオレを待ってんだ!
 戻りづらくてたまんねぇんだよ。
 真斗もレンも俺が何言っても大マジメに聞く。
 真斗はバカ正直すぎるし、レンは昔のことまで気に病む上に
 長所を短所扱いしてやっても意地になって無茶やりやがって……。
 これがてめぇのスタイルだ、ぐらいのこたぁ言えよ!
 マジで、どうしようもねぇバカだ。
 頑張りと無謀の違いもわかってねえよ、あいつらは!!」

 まくし立てると再びドサッとソファへ身を投げて天を仰ぐ。
 私は革のジャケットに頭をのせた。

「蘭丸」

 蘭丸が物問いたげな目を向ける。

「抱きしめて」

「はぁ?」

「はやく」

 ねだった体が相手の腕の中に包まれる。

「蘭丸、大好き」

 囁くと、ぐっと腕に力がこめられて息が苦しくなる。
 そっと深く息をして、ぴったりと体を近づけた。

「だから、ずーっとこうしてて」

「バカ言うな」

 蘭丸が顔を上げて不機嫌な声を出す。

「ずっと、なんてありねえ。
 あいつらとはユニットソングが出来るまでの辛抱だ」

「じゃ、そのあとで泊まりにきて」

 伸びあがっておねだりを追加する。

「あぁ、来てやる」

 その口の端が少し上がるのを確かめて目を閉じる。
 降りてきた口づけは、思った通りに凪いでいた。






 








◇2017.3.9
「うたの☆プリンスさまっ♪ Debut」のプレイ感想みたいなお話です。
先輩側も社長命令に逆らえず「仕事」をさせられているのなら
人によっては、どっかでキレたくもなるだろうなと思いました。








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