Little Strawberry
「わぁ、かっわいいなぁ〜」
ガラスの器に盛った苺に那月が歓声を上げる。
ヘタを取らずに洗った苺は確かに可愛い。
「そうだね」
「ふふっ、こっち向いてください」
「え?」
目の前に苺をつまんで差し出された。
「はい、あーん」
「あーん……って」
「とっても可愛い苺さんでしょう?
食べさせてあげますね」
私はソファの上で、那月から体半分ほど距離を取る。
いつの間にか詰められる距離。
気がつけば当然のように入り込まれている空間。
盗まれた空気はあっという間に相手のペースで染め上げられる。
決して嫌いじゃないけれど、私は恋人の笑顔から視線をそらして自分の苺を見る。
「あの、ひとりで食べられるよ、那月」
ねえ、普通に二人で「苺おいしいねー」なんて話すのは、ダメ?
「そんなぁ。
彼女さんなんですから、いーっぱい甘えて欲しいな」
ふわりと苺の甘い香りが迫る。
ついで私の唇に、苺がツイッと冷たいキスをした。
相手の期待に満ちた瞳を見てしまうと、1個食べたら満足するの、とは聞けず仕舞い。
ゆっくり口をあけると頬に右手が添えられた。
「。もっと、大きく」
すこし顔を上向けられ、那月が近づく。
苺が口に入ってきたので急いで歯を当てて追いかける。
思ったより、頬ばった粒は大きかった。
「ん、う」
「ああ、あわてないで……」
口の端にあふれる甘酸っぱい果汁。
そこへ素早く那月の舌が肌をかすめて、すくい取る。
一瞬で、心臓が跳ねて胸が苦しくなる。
「甘い」
那月が、ため息まじりに呟いて自分の唇を舐めた。
「あ、あとは自分で」
手をのけようと身をよじったものの、しっかり両手で顔を挟まれた。
「だーめ。逃げないで。僕の可愛い苺姫」
「なっ、なつき」
あげた声はかすれていて、間近の瞳は真剣な光を帯びる。
那月の手がゆっくりと首筋に降りてゆく。
「だって、耳まで真っ赤で、ドキドキしてて
も今すぐ、食べちゃいたいです」
いい? と聞かれ、私は、ひどく魅惑的な捕食者にうなずいた。
◇2017.3.5