Fresh Strawberry


「俺も手伝うよ」

「ひとりで大丈夫だよ。ゆっくりしてて」

 せっかくのオフだから休んでいてもらおうとしたけれど
 音也は軽い足取りでやってきた。
 洗い上げた苺のヘタを二人で取っていると、何気なく音也が呟いた。

「苺か……俺さ、小さい頃は1パックぜんぶ食べるのが夢だったんだよね」

「ふぅん、じゃあ今日その夢かなえてみる?」

「ええっ、いいよ!」

 音也が目を丸くして遠慮する。

「今はといっしょに食べたい。
 そのほうが嬉しいよ。君も苺、好きでしょ?」

「うん。好き」

 目をそらせないほど真っ赤で爽やか。
 そこがちょっと似てるな、と思ったのが気恥ずかしくて
 苺のほうに集中しているフリをした。

「だけど音也に全部あげても、ぜんぜん良い」

「あ、ありがとう
 はい、できあがり!」

 両手に1個ずつ苺の入った器を持たされる。
 そして私が横を向くより早く、頬に軽く唇が触れた。

「……音也っ」

「ごめん。早く食べたくなっちゃって」

 いたずらを見つかった子どものような目をして、片方の器に手をのばす。

「ここじゃダメ」

 それを、あっさりかわして器を持ち直す。
 直後、死角から私の肩に伸びた手が二人の距離を近づけた。

「俺が言ったのは、きみのこと」

 耳のそばで、ゆっくりと刻まれる言葉。
 そっと、音也がこめかみに唇を押し当てる。
 心臓の送り出す血の音が急に全身を熱くする。

「そ、それも、ここは、あれだから」

「そっか。じゃあ、あとちょっとだけ我慢する」

 ひょいひょいっと苺の器ふたつは奪われてキッチンから運び出される。
 なんとか顔を上げると、先にソファに陣取った音也が微笑んで
 はやくおいでよ、とばかりに両手を広げた。






 








◇2017.3.25








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