温厚篤実。
深謀遠慮。
公明正大。
清廉潔白。


誰も、誰も疑おうとすらしない舞台が
緻密な仕掛けを明かすことなく、転換される。



  紺屋の主 前編



さきほどまで、血生臭い戦いは、虚が多勢にものを言わせて押していた。
最初に頼んだ救援の手は波間に飲まれる桜花の如くかき消え、は血に染まった景色と、そこに散り残っている自分と、今しがた息を止めた相棒を狭まる視界に眺めていた。


敵は、虚だけだったはずではなかったかと。


救援というのは、仲間を助けるものではなかったかと。



「…嘘…そ…んな…?…」



風が白い羽織の裾をなぶり、倒れているの目の前へ一滴の染みも無い荒野をちらつかせる。


「いけないな。そんな傷で口をきくのは。」


両断する刃が白く閃かせて、確かに虚ごと仲間の死神を葬ったあと、そいつは易々とを救って一連の戦いを終えた。

「私の・・・ことが助けられたならっ・・・」

枯れた色の昆虫が、ささやかな斧を振り上げるように、薄暗く傾いで傷ついた刀は、やはり、穏やかな笑みを髪の毛ほども乱すことは出来なかった。

そして、斧を振り上げた昆虫はひょいとつまみあげられて籠の中へほうりこまれる。


その後には白い布と休暇と悪夢が待っていた。





紺屋の主 後編








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