2.君と二人で 〜一ノ瀬トキヤ〜


 今まで以上に良い曲を作ろう!
 決意も新たに、私は熱心にピアノに向かって午後をすごしていた。

 ふと目をあげると、ちょうど時計は3時を指している。
 ちょっと休憩してもいいかもしれない。
 と、ドアをノックする音が聞こえた。

 急いでドアを開けると一ノ瀬さんが立っていた。

さん。今、かまわないですか?」

「はい、ちょうど一休みしようと思ってました」

 そうだ、お茶の用意もしよう。

「あ、待っててください。お茶を淹れます」

「ありがとう」

 すこし待ってもらい、私は温めたカップに紅茶をそそぎ一ノ瀬さんにすすめた。
 一ノ瀬さんはカップを受け取り穏やかに微笑むと一枚のCDを差し出した。
 えっ!? HAYATO様のジャケット?
 思わず目が吸い寄せられる。

「実は、部屋の整理をしていて見つけたんです」

「あ、この曲は初めて見ます!」

「初期の頃にライブ会場で売っていたもので、そのソロ曲は有名になりませんでしたね」

「そうなんですか。貴重なCDですね!」

 聞きたい! 今すぐにでも!

「さしあげますよ。そのつもりで持ってきたんです」

「良いんですか!?」

 思えば前にもサイン入りのDVDをもらったことがある。
 一ノ瀬さんはHAYATOとしての活動はやめたけど、
 喜んでもらえるのが嬉しいからって、私にファンサービスをしてくれる。
 私からも、なにかお返しできるものがあればいいのに。

「大切にしてくれる人の所にあったほうが良いでしょう」

「嬉しいですっ。宝物にしますね。
 ……私も、なにかお返しできるものがあったら良いんですけど」

 そう言うと、一ノ瀬さんは柔らかな口調で

「あなたの笑顔が何よりのお礼ですよ」

 と、低く囁くように答えてくれた。
 ちょっとドキドキして下を向き、私はCDケースのふちをそっと撫でる。
 正面で、思いがけなく言葉が続いた。

「でも、そうですね」

「はい?」

 一ノ瀬さんの目が本棚に向けられる。

さんはどんなジャンルの本を読んでいるんですか?
 面白かった本があれば、教えてください」

「えーっと、それは」

 言いよどむ。
 気に入っている本はあるけど、一ノ瀬さんには似合わない気が……。
 軽い小説だし、どちらかというと女性向けだし。

「君が気に入っているなら、紹介してください。
 新しいフィールドの本と出合うのは楽しいものでしょう?」

 一ノ瀬さんは本当に読書が好きなんだなぁ。
 うん。言ってみようかな。

「アメリカの中西部が舞台の、軽い推理小説を読んでいます。
 あの、コージーミステリーって言って、あまり推理はしっかりしてなくて
 登場する人とかお料理とかの雰囲気が楽しい作品なんです」

「それはぜひ読んでみたい。
 外国の地方都市の空気がよく出ていそうです」

「そうなんです! 小さな町の人間関係や、季節感とかも素敵です」

「一冊借してもらえますか?」

「いいですよ」

 私は本棚から一冊出して一ノ瀬さんに渡した。

「感想をお話ししますね」

「はい。いっぱいお話ししましょう!」

 同じ本を読んでお話しするなんて楽しそう。
 次は、私も一ノ瀬さんのおすすめを聞いてみようかな。





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◇2017.2.20








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