4.君と二人で 〜愛島セシル〜
コンコンッ
そろそろ部屋を出ようとしていたところへノックの音。
鏡で最後のチェックをしていた私は、いそいでバッグを肩にかけた。
「はいっ」
「迎えにきましたよ、」
ドアを開けると黒いケースを小脇に持ったセシルさんが立っていた。
セシルさんは、待ちきれない様子で楽しそうな笑顔を見せる。
やる気満々なんだ。私も負けないようにがんばらないと。
「新しい曲のために、したいことがあります」
そう告げられたのは昨日のこと。
「レッスン室を取りました。さあ、」
さしのべられた手に、ちょっと戸惑う。
外国の人だからか、セシルさんがごく自然にすることに時々びっくりしてしまう。
手をつなぐのは恥ずかしい。
「お手をどうぞ。My princess」
ええっ、そんな!!
思わず手をあげて、そんなんじゃないですって言おうとしたら
開きかけた口の前で、すっと手を取られた。
とても素早いのにスマートで優雅な仕草。
私が見とれている間にセシルさんは少しゆっくりめに歩き出す。
私に合わせて歩いてくれているみたい。
結局、私達はレッスン室まで手をつないだままだった。
「あの、セシルさん」
ピアノの前でおずおずと言うと、セシルさんは恭しく持ち上げた手を離さず
一歩、私に近づいた。
見おろされた私は吸い込まれそうな綺麗な瞳に見つめられて、ドキリとする。
「、共に奏でましょう」
「え?」
「ワタシのフルートと、のピアノ。
音を重ねて、とけあって、そして愛を、見つけましょう」
わぁ、そんなに愛にあふれた音楽って、どんなのだろう。
私は心からワクワクして微笑んだ。
「はい! とっても楽しそうですね」
「ええ、きっとワタシ達なら見つけられます」
セシルさんがフルートを演奏し、私はピアノを弾いた。
たくさんの音はメロディーになり、物語が広がるように曲になる。
時には離れ、時には目と目で語りあうみたいに旋律が重なる。
なんて素敵な時間なんだろう。
セシルさんのために、いっぱい曲が作れそう。
これからも二人で合奏できるなんて、とても嬉しい。
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◇2017.2.21