6.君と二人で 〜四ノ宮那月〜
昼食後、私は寮の共用キッチンへ向かった。
部屋にも小さなキッチンはあるけれど、共用キッチンの方が広い。
大型の冷蔵庫や電子レンジもそろっていて
食材は所有者がわかるようにメモをつければ冷蔵庫などに置いてかまわない。
そろそろお味噌を買ったほうが良いかな。
他の調味料も確認しておかなきゃ。
そう思いながらキッチンに近づいた時だった。
バガンッ!
大きな音に続いて、すぅーっと煙が流れてくる。
何があったんだろう!?
スプリンクラーが動かないから火は出てないみたい。
急いでキッチンに入ると、見慣れた背の高い人がいた。
「四ノ宮さんっ!」
「さん」
「大丈夫ですか!?」
「ちょっと、電子レンジさんの具合が悪くなっちゃったんです」
ちょっと?
どうやったら電子レンジって爆発するんだろう。
幸い四ノ宮さんに怪我がなくて良かった。
そういえば前に翔くんや一ノ瀬さんから聞いたことがある。
四ノ宮さんのお料理はいろいろと危ないって。
「私、管理人さんに知らせますね」
駆けつけた管理人さんに叱られ、壊れた電子レンジを見送った私達はキッチンヘ戻った。
時間は午後2時前。
しゅんとしている四ノ宮さんに聞いてみた。
「お昼、まだですか?」
「いいえ、どうしてですか?」
「作ってたのはお昼だったのかと思って」
「いえ、常備菜を作っていました。あっ、味見しますか?」
いそいそとコンロにかけてあるお鍋に向かう四ノ宮さん。
さっきより元気そうなのは良いけど、味見は……どうしよう。
私もお鍋のそばへ行って中を見てみた。
野菜らしきものが赤みがかったスープの中でぐつぐつ言っている。
ふと気になった。
「いつもどんな調味料を使うんですか?」
持っていたお玉を置いて四ノ宮さんが首をかしげる。
「そうですね、その時の気分で色んなスパイスを使いますよ〜。
チョコレートとかラー油で下味をつけることもあります」
「お醤油とか、お酒とかは?」
「もちろん入れます」
味の想像がつかない!
最初から作るところを見てたらわかるのかな?
考えていたら四ノ宮さんが明るい声を上げた。
「もしかしてさんもお料理好きなんですか?」
「えっ、はい。好きなほうです」
「わぁ〜、僕たち似てますね。
そうだっ! 時々、一緒にお料理してもらえませんか?」
「一緒に?」
「はい。作ったお料理は一緒に食べましょう。
ほんのお礼です!」
いいことを思いついたと言わんばかりの勢いに気おされる。
でも、一緒に作るんだったら、味だけじゃなく電子レンジとかも無事だろう。
危なくならないようにお手伝いできることがあると思う。
私は笑顔で答えた。
「いいですよ」
四ノ宮さんがパッと顔を輝かせ、私をぎゅっと抱きしめる。
「ありがとうございます。
可愛いあなたとお料理できるなんて、とーっても嬉しい」
優しくてあたたかな腕の中で胸の鼓動が早くなる。
こんな時いつも、四ノ宮さんに何か言いたくなるのに上手く言葉にできない。
「わっ、私も、楽しみです」
なんとか一言答えると、また、四ノ宮さんの顔にふわっと笑みが広がった。
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◇2017.3.1