「好み」
「どうして殺さなかったんですか。戻ってきたらどうするんです?」
「そういうことがあれば、私が責任をもって倒しますから。」
真剣に請け合ったにも関わらず、同僚も先輩も釈然としない顔のままでした。以来、私は逃がしたことを秘密にしておくことにしています。
大きくて立派な相手を逃がしたいという思いは、相手によって変わることがあります。最近も職場で、給湯室のシンクから這い上がれずにいた小さい虫を捕まえて外へ出しました。
薄い灰色に微かな斑入りの足をしたその虫は、細いリボンの両脇へフリンジをつけたような姿で風にはためくように手足を動かし、さわさわと建物から遠ざかって行きました。
2008年5月31日(土)