如月の闇が思い出させる
はじまりの夜を
拾いものをした夜のことを
拾遺 2.
は夜更けに、間もなく明るくなる町のことを考えながら早足で歩いていた。
夜勤を終えた疲れた足。
機械的に前後へ繰り返していた動きが、人気の無い道の向こうに、何かの影を見つけてから警戒するように速度を落とした。
大型。
黒。
…鈴。
当人は眠っているにも関わらず、胸元を圧迫するような霊圧の中をすり抜けるように近寄ると、はあらためて、そこに落ちているものを見た。
…更木隊長…。
死覇装の向こうに横たわる闇が、懐手の、もうひとつの暗い重量にひたひたと寄せる。
「…隊長?」
重量の端へ伸ばされた細い手は、布に触れる前に邪魔な羽虫のように掴み取られた。
乾いた手の主が、そのまま薄目を開けて前を見る。
「うるせぇ。」
明らかに眠りを中断させられて、穏やかならぬ声音だ。が低く咎める。
「風邪、ひきますよ。こんなところで寝てたら。」
「引くかよ。」
こんな穏やかな夜の十や二十、外に居て壊れるものでもなさそうな唸り声が短く響く。なるほど、がっしりと丈高い偉容は、座敷に据えられているよりよほど、夜陰に沈んでいるほうが自然にも見える。
は、返事と共にぽいと放られた手と一、二歩後ろへよろめいたが、次はは手を出さずに剣八の傍へもう一歩、近づいた。激しい水流に取り巻かれているような圧力を感じながら、香ばしい食べ物に引きつけられるように離れがたい。
これまでは、ただ遠くから望むばかりの隊首。
力強く、血腥く、斬撃と白刃で出来ていて、実は戦いに憑かれた狂気そのものだと囁く者もいる。
ほんとうにそれは確かめたことは無いけれど今夜逃すと二度と拾えなさそうな質量で、路ばたで夜が過ぎるのを待つのも良いと思ったことは確か。
「更木隊長が居るなら私も、ここがいい。」
頭が音無くもたげられ、を見た目は、さきほどより広く開かれたようだった。
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◇06.11.05◇
読み切りで、出会いの一場面のつもりが続き物へ方向転換。