「将軍は故郷へ帰り…原点その4…」
前回はソン将軍が王様に仕えるかわりにお暇を願い出て、お許しが出た
ところまでお話しました。
今回はまず、少々長くなりますが、以下へ前回の続きの、物語の終わりの
場面を手元の本から引用させていただきます。
「王はさっそく許されたので、その場でバーユー将軍は、よろいもぬげばかぶとも
ぬいで、かさかさ薄い麻を着た。そしてじぶんの生まれた村のス山の麓へ帰って行って、
あわをすこうしまいたりした。それからあわの間引きもやった。けれどもそのうち将軍は、
だんだんものを食わなくなってせっかくじぶんでまいたりした、あわも一口たべただけ、
水をがぶがぶのんでいた。ところが秋の終りになると、水もさっぱりのまなくなって、
ときどき空を見上げては何かしゃっくりするようなきたいな形をたびたびした。
そのうちいつか将軍は、どこにも形が見えなくなった。そこでみんなは将軍さまは、もう
仙人になったといって、ス山の山のいただきへ小さなお堂をこしらえて、あの白馬は神馬
に祭り、あかしやあわをささげたり、麻ののぼりをたてたりした。
けれどもこのとき国手になった例のリンパー先生は、会う人ごとにこういった。
「どうして、バーユー将軍が、雲だけ食ったはずはない。おれはバーユー将軍の、
からだをよくみて知っている。肺と胃の腑は同じでない。きっとどこかの林の中に、
お骨があるにちがいない。」
なるほどそうかもしれないと思った人もたくさんあった。」
(宮沢賢治著「北守将軍と三人兄弟の医者」フォア文庫『風の又三郎』所収、岩崎書店、1982年)
さて、皆さんはこの部分を読まれてどのように思われるでしょう。
将軍は仙人になったのか、それとも人として天命をまっとうしたのか。
私は初めて読んだときから、今読み返してもまだその答えが出せずにいます。
答えの出ない理由は、まったく違う二つの結末が同じ比重で提示されているところだと
考えますが、結末についての詳しい話はまた次回にいたします。
国語の勉強のようですが、ぜひ皆さんも「将軍消失の真実」について、どうしても
どちらかの結論しか選べないとしたらどちらを選ぶか、考えてみてください。
2005年10月31日(月)